夜一を見たらわかること
あたしは口元を押えたまま立ち尽くしてしまった。
唇で受け取った柔らかい感触はなんだったんだろう。
なんか温かくてふわっとして吸いついた。
味なんてなくて、食べ物なわけがなくて。
ていうか、あんなに近くに人の顔を感じたことが無いし。
あたしの唇が夜一の唇に触れたんだ。
ていうことは、キスした。
夜一とキスをしたって後を追うように実感した。
「いるり、どうした?」と、章吾は小走りで戻ってくるなり聞いてくる。
見られたのかと、心臓が浮いたようにふわっと所在をなくした。
「いや、なんか待ちくたびれたからさ。落ち着かなくて…」
「えっ?そんなに遅かったかよ?」
笑いながら、ココアの缶を手渡してくるから、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
何の反応もないところを見ると、キスされたとこは見られていなかったみたいだ。
だけど、こんなこと章吾に言えるわけない。
章吾とキス出来なかったのに、キスしてしまった。
どうしよう。
あたし、最低なことをしてしまった。