夜一を見たらわかること

章吾はあたしとキスしたいときっと思ってくれてるのに。

「章吾、そろそろ帰るか?」

「はっ?もう帰るのかよ?」

動揺してそんなことを言うあたしに呆れた目をする。

だけど、キスしたのがバレたらもっと嫌な顔をするんだと思う。

そんな顔見たくない。

多岐川夜一。

あたしの家の近所に住んでいて小四のときに転校してしまった男の子。高校で再会するとは思わなかった。

あの頃は、あたしや他の男友達によくからかわれてた。

その都度、泣きそうな顔をしていた。

声だって震えてた。それが面白くてついついちょっかいを出してた。

だけど、その瞳から涙が零れることはなかった。

泣きそうだけど、泣かない男の子だった。

だけど、あの日、一度だけ。

あたしは夜一を泣かせた。
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