夜一を見たらわかること
五時間目の書道の授業。
墨汁の匂いが教室の隅まで広がる。
あたしも、硯に墨汁をいれた。もう少し濃くしたくて、墨をすった。
実はこの作業がちょっと好きだったりする。
無心になれる。そんな感じだからだ。だけど、今日はそうもいかない。
この席が嫌だと思ったからだ。
夜一の席からあたしの背中が嫌でも目につくから。
見てるわけじゃないって分かってるのに。
それが気になって仕方ない。
キスされたせいかな。
あの意味が分からなくて困惑している。
祢音が言うようにあたしを好きだからしたとか。
なわけないだろう。
だからって教室の中でそれを訊くなんてことは出来ない。
だって、章吾にそんな話聞かれたら、嫌われてしまうって思うからだ。
それに、夜一とは学校で話したことがなくて、目も合わないから話しかけにくい。