夜一を見たらわかること
「いるり、書けた?」
後ろの席は祢音。あたしの背中を筆でつつく。振りかえると、夜一の姿が、自然と目に止まってしまう。
「書けたけど、微妙」
「ここのしんにょうが憎いね」
漢字にダメ出しをして笑う。
そんな祢音は、書道部。
ほんわかした子猫の毛みたいな雰囲気とはギャップを感じるけど。
書道部でエースなんて言葉を遣う気はしないが、適切であればそんな存在みたい。
視界の端っこにはまだ俯いて筆を持つ夜一がいる。
その手元には、お世辞にもうまいとは言えない彼の字。
振り返る度、こうして何度か盗み見たことがあったけど。
他の芸術教科を選らばなかったのが不思議だった。
イラストや図工が得意な男の子だったのに。なんで美術にしなかったんだろう。
それだけが未だに、あたしの胸でつっかえてる。