夜一を見たらわかること

その日の放課後、雨がたくさん降った。

折りたたみの傘を鞄から出して、ワンタッチで開く。

道路には水たまりが出来始めていて、ローファーが濡れないようにと無駄に小股で歩いた。

携帯がブレザーのポケットで揺れるけど、それも濡らしたくなくてシカトした。

信号で足を止める。傘がトンッと隣の傘にぶつかった。

「あっ。ごめんなさい」

顔を横に向けると、高い鼻が見えて、ぶつかった相手は夜一だった。

「ごめんなさい」

同じように返すけど、悪いとは思ってないみたいように見えた。

あの公園以来、口を利いていない。教室ですれ違っても声なんかかけない。

「おい」

「ん?」

「この前のこと……なんなんだ? ふざけてんのか?」

「この前のことってなに?」

「だっ……だからあれだよ。公園」

「公園で何かしたっけ?」

「はっ? だから……その……したじゃんか?」

「何を?」

シラをきる夜一にイライラが募る。だけど、こんなとこでキスなんて口に出すのも恥ずかしくなる。

「ああ」

夜一は、あたしの顔を覗き込む様に腰を屈めた。

目が間近で合うからドキリとした。この前のキスを思いだしてしまった。

薄ら笑いを浮かべたかと思うと、

「俺とキスしたこと?」

と言った。

信号がパッと赤から青に変わった。
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