夜一を見たらわかること
だけど、あたしは青から赤に変わった気分で、動けなかった。隣にいる夜一も動かなかった。
後ろにいたおばさんが邪魔だというように、舌打ちした。
「またキスされると思った?」
「お……思わねーよ」
目を合わせたくなくて、あたしは傘で顔を少し隠した。
「思ったくせに」
「はっ。ちげーよ!
つうか、声でかいって。
んなことここで言うなよ!」
周りには同じ学校の制服が駅へと向かって行く。
章吾の姿は見つけられないけど。誰かに聞かれたらと思うと気が気じゃない。
「キス避けられたのにね」
「はっ?」
「彼氏みたいに、誤魔化せたのにね」
「あっ。 あれはだって、急すぎて……しちゃったんだよ」
「キスしたの認めてるなら、共犯だね」
そう言うと、パッと彼の手があたしに伸びたのが分かった。
広がる傘の端を軽く上へ押し上げてあたしの顔があらわにされると、夜一と目が合う。
「傘で顔隠すなよ」
急に、声のトーンが低くなり、口調が変わる。
その手に雨の粒が落ちて弾いてはまた落ちてく。
それなのに、あたしの傘から手を離さない。
「恥ずかしいんだ」
そう言って笑った。
さっきから、熱を持つ耳。その言葉のせいだって分かる。
顔だって熱くなってるって自覚がある。