夜一を見たらわかること

「ふうん」

つまんなそうに呟くと、夜一はあたしの後頭部に腕を回した。前、キスされたときには見ることの出来なかった艶っぽいレンズの奥の瞳に何故かドキッとしてしまう。

唇から吐き出される息がかかりそうだ。

それ以上、近づくなんて無理。

「やだっ」

「夜一?」と声がしたのはドアの外だと思う。

その姿勢のまま視線だけ夜一は声の方へと向けた。

「なに?」

「お昼御飯どうするの?」

暢気な問いかけにほっとした。きっと、夜一のお母さんだ。

「お友達も食べるなら一緒作るけど?」

どうするって顔でまだ身動きひとつ出来ないあたしを見る。

「食べる」とだけ言った。

「じゃあ、お願い」と告げると「あとで持ってくるね」と言いながら足音が聞こえた。

安心したせいか頬が緩んでしまった。

「夜一のお母さん?」

「うん」

「そっか」

夜一の腕があたしから離れた。

ほっとすると同時に、切なくなった。

きっと、昔の夜一を知っている所為だ。
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