夜一を見たらわかること
「つうか、なんの絵描いたくらいは教えろよ?」
「濱田さん」
パタンとまたスケッチブックを閉じる音がした。
「はー?見てなかっただろー?」
「覚えてる」
そう言われて、ギュッとなったのは。記憶の底から手が出てあたしの心臓を握りしめるみたいだから。
「へー」
恐る恐る横目で見ると、夜一も芝生に寝そべっていた。
瞼を手の平で隠す。たまに吹く緑を含ませたような風が気持ちいいのか涼しそう。
あたしの考えすぎかもしれない。
「夜一……」
「ん?」
「弟いたんだね?」
「ああ。いるよ」
「幾つ?」
「四つ」
「ふうん。仲良さそう。
さっきいたでしょ?
見ちゃった」
「ああ。ここの公園、あいつの遊び場だから。
仲いいよ。めちゃめちゃ可愛い」
「ちゃんとお兄ちゃんしてるの?」
「してる。
可愛すぎて、虐めたくなるけど」
「ダメじゃん」
「可愛いと虐めたくなる」
また何かにギュッとされた気分。今度は過去ではなくて、今だって分かる。弟のことを言っているのにドキドキした。