夜一を見たらわかること
push
「いるり」
廊下から章吾があたしを呼んだ。
「今日、部活休みだから一緒帰ろうぜ」
「あー。うん」
「なんだその顔」
「はっ?今さらあたしの顔に文句つける気かよ?」
「確かに今さらだよな」
そう言って笑うから、思わず逃げてる腰に蹴りをいれてしまった。
なんだろう。章吾といると楽しい。それは前から思ってたこと。友達だったときもそうだった。
だけど、ドキドキとかそういう感覚は味わっていない気がする。
章吾のこと、好きなはずなのに。
後ろを振り返ると、目の前に夜一が立っていて、思わずのけ反って転びそうになった。
反射的に出たんだろう。夜一があたしの腰に腕を回し、支えてくれた。
「ご……ごめん」
手が離れると、腰を屈めて耳元で「日曜日来れそう?」と囁かれて、あたしはまた小さく頷いてしまった。
恥ずかしいと考えるより、ドキドキという自分の音に意識が集中してしまう。こんな気持ちになったことがなくてよく分からなかった。
だけど、気持ちがあるってことは分かってた。それが何に当たるのか、考えてやっぱり考えるのをやめた。
なんだかとても熱っぽい。