夜一を見たらわかること
章吾と手を繋いで駅まで歩いた。
流れる人の中に入れば、それさえ下校の一部始終。一瞬だけ、誰かの目に映るくらいなのに、気恥かしい。
「今日、家来る?」
「章吾の家?行って大丈夫なのかよ?」
「うん。なんか親、遅くなるって言ってたし」
「う……ん。章吾がいいなら行ってもいいけどな」
頷きながら考えてしまった。章吾はあたしの彼氏なんだって。夜一の家に行って絵を描いて貰うのとは違うんじゃないかって。
親がいないってことはキスとかするかもしれない。
章吾と、キス出来るのか。
そんなことを最近、よく考えてしまうんだ。
駅前のバスプール、章吾と同じバスを待つ。
ふっと視線を反対側のバス停に目を向けると、同じ高校の制服がたくさん並んでる。こっちから見ても、ダサいと思った。
だけど、夜一が目に入った。教室と変わらないその姿は、片手に文庫本。何処でもひとりの世界みたいだな。
そう思うと、夜一が顔をあげた。見詰めていたみたいで嫌だから顔を伏せようとした。その瞬間、章吾があたしの顔の前に顔を出した。
「どうした?具合悪いのか?」
心配そうに覗きこむ。お蔭であたしの瞳には章吾しか映らなくなる。バスが目の前に到着した。
「なんかお腹痛いから帰りたい」
「はっ?お腹?」
「うん……痛い」
心配してる章吾の顔を見ているのに、あたしはそう言わずにいられなかった。お腹なんか痛くないのに。