夜一を見たらわかること
だけど、夜一の唇は、あたしの唇の端にかすって止まった。
離れて息はすぐ遠くなる。
目を開けると、ただ俯いた夜一がいた。
「びっくりし……た」
夜一はかすかに口角があがってる。笑ってる。
ほら、やっぱりからかってるだけだ。
眼鏡の奥の瞳まではよく見えないけど。
「帰れよ」
「はっ?」
「帰れ」
「どうしたんだよ?
夜一?」
「大きなお世話だよ」
「えっ?」
「絵を描けとか大きなお世話」
「何言ってんだよ?
あたしは夜一に描いてほしいぞ。
だって勿体ねーって思うし…」
「……なあ、自分の小四の頃の夢覚えてる?」
「うーんと……」
言いながら思いだせないでいると、夜一が見かねたのか、「アイドルになるって言ってた」と呟いた。