夜一を見たらわかること
「濱田さんがさっき言ったことなんかさ。
濱田さんに可愛いからアイドルになれるかもって言うのと一緒だよ。
でもなりたくないんだろ?
なら言われても困るだけだろ?」
「夜一、困ってたのか?」
「……」
「あたし、困らせてたんだ?
でも、夜一、あたしの絵なら描いてもいいって言っただろ?」
「冗談だよ。
濱田さんが絵とか言ってうざいから、少しからかいたくなっただけ」
冷たく言うから、あたしはもう何も言えなかった。代わりに夜一が立ちあがって、あたしがさっきまで着てたパーカーと鞄を手にした。
何も言わなくても本気で帰れと言われてるのが分かった。ただ辛かった。
「もしかして悪いとか思ってんの?
そんなんで来てるなら笑っちゃうけど」
ドアを開けると、後ろからそんな声がした。
息が止まりそうになる。振り返れなかった。返事も出来なかった。
ただ、夜一はあたしがしたことを知ってて、赦していないんだって。そう思うには十分な一言だった。
ドアが閉まって、夜一しかいない家の階段をひとりで下りる。足音はあたしひとり分しかなくて、ひどく寂しかった。