夜一を見たらわかること

「夜一、絵ばっか描いて飽きねーのか?」

「飽きない」

「なんの絵描いてんだ?」

「お母さん」

「お母さん?」

そう言っても目の前にお母さんなんかいなかった。

「お母さんいないのに描けるのか?」

「覚えてる」

「夜一、マザコンなんだ」

そう言ってからかうと口を尖らせた。だけど、言い返してこない。

「マザコン!マザコン!」

「だって……。
僕の絵見るとお母さんが元気になるって言うから」

恥ずかしそうにモゴモゴ話した。

「絵、見せろよ」

「ダメ」

「なんだよ?
いつも見せてくれるだろ?
見せろよ!」

「完成したらいちばんにお母さんに見せる約束したからダメ」

必死に絵を隠す。弱気な夜一が、少し男の子みたいな顔をするから、無理強い出来なかった。

だけど、心のどこかで見てみたいと思ってたんだ。

そしたら、その絵が県の何かのコンクールで金賞を貰った。

階段の踊り場の掲示板に飾られてると聞いて、見たくて仕方なかった。

ただ普段からかってる夜一の絵をじっくり見るなんて行為を人に見られたくなかった。

だから放課後、誰もいないのを見計らってひとりで見に行った。

あたしは、夜一のお母さんの顔を一度も見たことがなかった。

家は近所なのに、一度も見たことがなかった。

< 69 / 92 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop