夜一を見たらわかること
うん。キスとか。
出来んのかな。
まだ、いいかも。
このくらいで。
らしくないって思われそうだけど、恥ずかしいんだ。
だって、あんなに顔を近付けるなんて無理だ。
鼻息とかどんな顔をしていいのかとか気になるし。
「なんか……」
〝慣れない〟と言いそうになって口をつぐんだ。
見上げた章吾の耳が真っ赤だったからだ。
きっと章吾も恥ずかしいと思っているに違いない。
だからか、あたしの言いかけの言葉が聞こえていないのか、章吾も無言だった。
ベンチに黙って腰をかける。
目の前の公園の広場にはお母さんが子供の手を引いて家路につこうとしているところ。
その長い影はくっついて、ひとつの黒い動物みたい。
二人きりになってしまう。
「いるりさ……」
あたしの名前を呼んだかと思うと、体をあたしに向ける。繋ぐ手がギュッとされた。
章吾の真面目な顔があたしに近付こうとしてるのが分かった。