夜一を見たらわかること

水彩画で淡く、柔らかく微笑むその女性はとても綺麗でドキドキした。

どことなく夜一に似てる。キリッとした目や、薄めの唇。

これが夜一のお母さんなんだって、食い入るように見てた。

ふと絵をとめてる画鋲がとれかけてることに気付いた。はがれる前に直そうと手を伸ばした。

そのとき人の声が聞こえた。

だから慌ててその絵を引っ張ってしまった。

横からビリリと破けてお母さんの顔が裂けた。

それなのに声が近付いてくることにまた、焦ってしまって。

絵を掲示板から剥がした。

教室までただ走った。

それから、ランドセルの中に突っ込んで、教科書も詰め込んで隠した。

重い重いランドセルだった。

翌日。夜一が、職員室の前で泣いていた。

先生の「絵、見つかるわよ」と慰めている声が聞こえて、あたしは顔をあげれなかった。

泣いてる夜一を初めて見た。

きっときっと大切な絵。

セロハンテープで修復した絵は今もあたしにも微笑みかける。

「ごめんなさい」

何度この絵に謝ったんだろう。

返事なんかあるわけない。
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