夜一を見たらわかること

それから、謝るきっかけがないまま、気が付けば夜一は転校してしまった。

あたしのお母さんにあとで聞いた。

夜一のお母さんは病気で入院してるって。

だから、夜一はお母さんに元気になって貰いたくて描いてた。

たくさん、たくさん絵を描いてた。

見せたかった物があったのかもしれない。

一緒に見たかった物があったのかもしれない。

だけどお母さんのその絵はその中でもいちばん喜んでくれた絵だったかもしれない。

クローゼットを開けた。

その奥には、夜一が一生懸命描いたその絵がある。

あの日から、ずっと夜一の描いた絵は飾られることなくここにある。

あたしがずっと持ってる。

〝濱田さんはすぐ隠す〟

再会した夜一に言われた言葉。

うん、あたしは隠し続けてる。

あの日の放課後。

あたしは見たかっただけだったのに。

だから、夜一の大切をこれ以上何も奪わないで下さい。

何かに祈りたくなった。

絵をくるくると丸める。

夜一に、返したい。

謝りたい。

「ごめん」って。

伝えたい。

その足は、いつものように乗り継いで降りた夜一の家の近くのバス停で降りてた。
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