夜一を見たらわかること
「うん。
髪の長い人、笑ってるの」
「髪の長い……」
呟きながら意識してしまう。あたしの髪は胸元まであるけど。
誰の絵なんだろう。
だけどやっぱり夜一は描いてたんだ。
ニコニコと笑う。嘘なんか知らないみたいに見えた。
「お兄ちゃんは好き?」
「うん。大好き」
自信満々な笑顔は、あたしの涙腺を簡単に引っ張っる。視界は一瞬、水の中。
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんのこと好き?」
「うん。大好きだよ」
そう返すと、本当に嬉しそうに笑った。
こんな小さな子でも好きの意味を理解してるんだ。
笑うから、そう思った。
好きは体温みたい。
夜一のことを好きって言ってくれる人がいるって分かっただけで、あたしまで温めてくれたから。
言葉にぬくもりがあるなんて、初めて知った。
夜一が変わったのは、きっと人に思われてるからかな。
「好き」
章吾もあたしにくれた。
触れられないけど、あたしは嬉しかった。
その思いは、丁寧に折りたたんで心の中にしまい込んでおく。
触れないように。
いつでもあると気付けるように。
あたしの中に入れておきたい。