夜一を見たらわかること
「章吾、喉渇いた」
「はっ?」
「ジュース奢ってくれよ!
すっげー喉渇いた!」
顔を少ししかめた後、軽く笑いながら「なに飲みたい?」と、章吾が言うから、ココアと言った。
繋いでた手が離れると、気持ちが少し楽になった。
自動販売機に向かう後ろ姿を見ながら、やっぱりキスをする心の準備が出来ていないと実感する。
がっかりさせたかもな。こんな可愛くない態度とって。
だけど、どんなときでも嫌な顔をしない優しい章吾。
やっぱり好きだって思った。
背後に人の気配を感じた。
振り返ると、足を止めて、あたしを見詰めている男の子がいた。
紺のブレザーにグレーのパンツ。ダサいと言われてるあたしの高校の制服。
薄いレンズのフレームなしの眼鏡に、奥二重の釣り目。
鼻だけは形が良くて高いけど、唇は頼りない程薄い。
染めたことのないような黒い髪の毛。
見ようによっては綺麗な顔にも見えないこともない。
そんなこと再確認しなくても、一目で分かった。
多岐川夜一(タキガワヨイチ)。あたしの会いたくなかった人。