夕暮れにさよなら。
「...橘だったら、どうする?」
それが、去年卒業した、"先輩の好きな人"のことだなんて、嫌でも解ってしまう自分が憎かった。
噂の中のその人は、綺麗で、明るく、優しい人で、そして私の声とその人の声は、似ているらしい。
そんな、見たことのないその人に私は何度、嫉妬したことだろうか。けれど、その人の噂を聞くたび、先輩の横顔を見るたび、私は一生敵わない、きっと素敵な人なのだろうと思った。
「...私だったら、追いかけます」
「.....追いかける?」
「...はい、好きなら...追いかけて、奪って、その人を幸せにします」
先輩は驚いたようにゆっくり瞬きをすると、
「橘は、すごいなぁ」
そう言って、クスクスと優しく笑った。