強引上司と過保護な社内恋愛!?
「あの…ごめんないさい。泣くつもりはなく…」

言葉を遮るようにして、桧山さんは私を抱き寄せる。

ふんわりと愛用しているコロンの香りに包まれた。

「俺も寂しい。会いたくなったら電話していい?」

私は桧山さんの胸に顔を埋めたまま、首を何度も縦に振る。

「今生の別れのように言ってるけど、年に何回かは日本に帰って来るし」

私の頭を大きな手で撫でながら、耳元で小さく笑う。

「そしたら真っ先に会いに行く」

いずみ、と私の名を呼んで桧山さんは顔の見える位置まで身体を引き離す。

涙で頬に張り付いた髪を指先で梳くと、ゆっくりと顔を近づけて来る。

「ああ!」

互いの唇まであと数㎝のところで私はデッカい声を張り上げる。

桧山さんはビクっと身体を痙攣させた。

「…なんだよ」

キスをお預けされて不服そうだ。

「そういえば桧山さん携帯解約しちゃったじゃないですか!私はどうやって連絡すればいいんですか?!」

ああ、と言って、ジャケットの胸ポケットから真新しいスマートフォンを取り出す。

何だ…持ってんじゃん。

「ひ、酷い。携帯変えた事を私には教えてくれなかったんですね」

「泉が若い男とイチャイチャしてたからだろう」

桧山さんは目を細めて非難がましい視線を向ける。
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