強引上司と過保護な社内恋愛!?
「さいあくです」

手酌で瓶ビールをドクドクとグラスに注ぐ。

今日一日で何度この台詞を使ったことか…。

「いずみん、女性が手酌をすると行き遅れるらしいよ」

「もう行き遅れてるので問題ありません…」

まーね、と呟き、桧山さんは否定する事なく清流の如くサラリと流す。

結局あの後、大隈部長の誤解が解けることはなかった。

お詫びと一宿一飯の恩義を兼ねて、桧山さんが夕飯をご馳走してくれることになった。

連れてきてくれたのは、会社から2駅ほど離れたどこにでもあるような街の中華屋さんで、こじんまりした店内は会社帰りのサラリーマンで混み合っていた。

テーブル席はなかなか空きそうもなかったので、私と桧山さんはカウンターに並んで座る。

「下手に誤解を解こうとすると、返って怪しまれるもんなんだよ。こうゆうのは曖昧にしておいて、みんなが忘れるのをコッソリまつのが上策だ。言うだろ?人の噂も75日って」

桧山さんは一口で餃子をパクリと食べる。

「そうゆうものなんでしょうか…」

私は棒々鶏を箸でつまむ。
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