ねぇ、松風くん。
……あ、こんなところで呑気に油を売ってる場合じゃなかった。
ワークを配れって頼まれてたんだ。
「あ、あの!松風くん、助けてくれて本当にありがとう。」
「佐々木さんって、危なっかしいよね。昨日バイト中も思った。」
相変わらず抑揚のない声。
でも、その表情はいつもよりほんの少し穏やかだった。
「そ、そんなこと……ないとも言えないけど。って!私、ワーク配らなくちゃ!」
また松風くんに流されておしゃべりするところだった。
「佐伯に扱き使われてるんだ。」
「そうなの!かれこれ2年目!それじゃあ、2人共また…って、松風くん?」
2人に背を向け、再びワークを抱えて階段を上ろうとした時、いきなり腕の中が軽くなった。