涙雨
二人
それから、あたしは荷物を取りにあの家に向かった。
悠は心配だからと、アパートの下で待っていてくれてる。
あの部屋に行くことさえにも恐怖心からか、抵抗があったけれどこれを乗り越えたら解放される。
そんな思いでドアノブを握り、ドアを開ける。
廊下は真っ暗で、奥にあるリビングに明かりがついていた。
テレビの雑音と、お母さんの笑い声が聞こえたけど、あたしは気に留めず自分の部屋に入り、荷物をまとめる。
「千佳〜いるのぉ〜?」
物音に反応したのか、お母さんがあたしの部屋に入ってきた。
あたしは振り向く事なく準備にだけ集中する。
「やっだあんた!もしかして出て行く気〜?」
馬鹿にしたようにあたしを見下して言う。
それでもあたしは何も言わない。
だってこれがあんたの望みだったんでしょ?
全ての荷物の準備が終わらせ、あたしは立ち上がり荷物を持ち上げて口を開く。
「これがあんたの望みでしょ?」
それだけを言ってお母さんを押しのけて玄関に向かう。
「あんた、どうせ男のとこにでも行くんでしょ?さすが、あたしの子よねぇ。せいぜい幸せにね?」
悔しい。
こんな女と一緒にされたくない。
あたしは、あんたみたいに子供を捨ててまで男を選ぶ女じゃない。
喉まで込み上げた思いを押し殺して、あたしはそのアパートを出た。