【完】午後7時のシンデレラ
モデルなんて経験したこともないし。
男の子と手をつないだこともない。
恋人つなぎなんて、ハードル高すぎ。
「じゃあ休憩入りまーっす」
スタッフさんの指示に、つながれた右手が離れる。
鼓動が大きくて、身体中を巡る血液の流れもどことなく早く感じる。
疲れて椅子にドサっと座り、スタイリストさんにメイク直しをしてもらう。
「志保ちゃん、どうしたの?いつもらしくないよ〜」
だって、わたし藤井 志保じゃないもんっ。
...なんて口が裂けても言えない。
励ましてくれる彼女の笑顔が、余計にわたしを苦しくさせる。
視界の隅では、カメラマンさん、スタッフさんがなにやら話し込んでいる。
「公園のシーンは...」
「表情が固すぎて、デート感出てませんよ」
かすかに聞こえる会話に、罪悪感を再び抱く。