【完】午後7時のシンデレラ
3
「梅崎[ウメザキ] 恭弥」
チケットを買うために列に並んでいると、彼は不意に口を開いた。
「え?」
「俺の名前。言ってなかったろ?」
穏やかに微笑む彼には、何度見ても鼓動が早くなる。
わたしって、こんなに面食いだったかな。
「あ、わたしは...」
「知ってるよ。芸名も本名も一緒の藤井 志保だろ?」
わたしも自己紹介をしようとしたのに、先に彼が答える。
「志保って呼んでもいい?」
「俺のことは恭弥でいいから」
と笑う彼の笑顔に、胸がちくりと痛む。
わたしは藤井 志保じゃないのに。
彼の目に映るわたしは、松永 直じゃない。