ディスオーダーⅡ【短編集】
 さっきまで話していたクォートの姿はない。熊の絵が描かれた傘ごと、クォートは消えてしまった。

 周りで聴こえるのは、いっそう激しく降る雨音だけ。

 しばらく呆然と立ち尽くしていた僕だけれど、ハッと我に返るや否や、恐怖のあまりに逃げ帰るように家に戻った。


●●●●●●


 あれから数日が経った。今日も雨が降っている。

 クォートの行方は分からないままで、クォートの両親や警察はその行方を捜している。

 家に戻ったあと、なんの事情も知らない母さんはのんきに「起こしてくれてありがとう」だなんてお礼を言ってきたけれど、僕のただならぬ様子を見て心配してくれているようだった。

 ……まさか、雨が降らない区域に入ったクォートが消えてしまいました。だなんて言えるわけもなく、誰にも何も言えないまま時間だけが過ぎていた。

 昼ご飯を作る母さんを横目に、窓の外に目をやる。雨はやみそうにない。それは別にどうだっていい。ただ──。


「また増えてるの?」


 母さんの声に僕はうなずく。クォートが消えてしまったあれから、信じられないことに、雨が降らない区域が増えていた。

 それは規則正しい形だったり、歪な形だったり。大きさも異なっていて、公園くらいの大きさもあれば、サッカーボールくらいのもある。

 相変わらず空を見上げればその部分だけは雲が無く、まるで穴の空いたチーズみたいにボコボコしているみたい。

 さすがにここまで事態が大きくなると、嫌でも地上に住んでいる人に知れ渡っていく。でも、気味悪がって雨の日は外に出ないのは、前と変わらないままだ。
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