ディスオーダーⅡ【短編集】
32 → ヌマたまり
 僕の目の前に小さな沼があった。

 言うてしまえば、人ひとり分くらいの沼。見た目だけじゃ深さは分からない。当然、温度も分からない。けれど、毒々しいその色をした沼に触りたくないのは、確かだ。

 ふと、頭上から女性が降りてきた。ロープで身体をぐるぐる巻きにされた彼女のことを、僕はよく知っていた。

 だって、彼女は“彼女”だ。

 僕が愛する、たったひとりの彼女。

 どうして彼女がロープでぐるぐる巻きにされているのとか、そして、どこからロープが吊るされているかは……見上げてみても、分からない。

 そもそも僕がどうしてここにいるのかも分からないし、ここがどこなのかも分からない。分からないことだらけだ。

 そんな中、真っ白い翼を生やした天使……らしき人物が空の上から姿を現し、僕の目の前に降り立った。


「やあ」


 美しい顔立ちをした天使は、僕に対してニコッと微笑みかける。

 天使がこの世に存在するのかも謎なところだが、今の状況を見たら信じざる得ないのかもしれない。

 沼と彼女と天使。

 全くもって意味が分からない状況だ。
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