without you
そのとき、「さあ!これでいよいよ最後になります、エントリーナンバー10!」と高らかに言う、ようこちゃんの声が聞こえてきた。

どうやら、自己暗示をかけていたらしい社長は、やっと自信を取り戻したのか。
それとも、もう引っ込みがつかないところまで来たんだからと、覚悟を決めたのかもしれない。

ステージを見ながら、「木戸。俺がいくらで落札されるか、しっかり見とけよ」と言った久遠社長の声には、揺るぎがなかった。

いつものテンションに戻った。よしっ。

顔に安堵の笑みを浮かべながら、久遠社長の大きな背中に向かって、「行ってらっしゃいませ」と小声で言った私に、社長は、前を見て歩きながら、左手を上げて応えてくれた。

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