without you
背後から声をかけられて、私は飛び上がりそうなくらい、ビックリしてしまった。
しまった。退職届に気を取られて、社長の気配を感じることは二の次になっていた・・・。
それでも私は、手に持っていた退職届入りの白い封筒を、ふり向きざまに、サッと自分の後ろに隠し持った。

「あ。悪い。驚かせたか」
「いえ、別に・・・おかえりなさい、社長。早かったですね」
「今6時過ぎだから、一応予定どおりだと思うが」
「えっ?あぁ・・そうでしたか。時間が経つのは早いですね」

不自然なふるまいをしていることも、ぎこちない笑みを浮かべていることも、自覚している。
だけど久遠社長は、何も言及してこなかったので、ひとまずホッとした。

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