without you
どうやら社長は、あいつに対して憤慨してるらしい。

「それから決定的な出来事がありました。その日は確か、日曜日だったと思います。私は料理教室があって。さあ行こうとした矢先、あいつから電話がかかってきたんです。“風邪を引いて熱がある。動けない。すぐ俺んちに来て”と。確かに、声はちょっと弱弱しかったから、実際熱はあったんだと思う。でも、逆に言えば、私に電話する“元気”があるなら、この人大丈夫だと思ったんです。前の日だって元気だったし」
「なるほど」
「だから私は、“彼が熱を出して看病しに行かないといけないから”という理由で、やるべき仕事を放り出すわけにはいかない。お金を払って私のレッスンを受けに来てくれる生徒さんたちに、そんな理由でドタキャンなんてできないと言って、料理スタジオへ向かいました。そして、レッスンを終えて、急いで片づけてから、すぐあいつのところへ行きました。車を飛ばして。途中、風邪薬を一応買って。そして合鍵を使って中に入ったら、あいつ・・・私が思っていた以上に元気だった」

< 540 / 636 >

この作品をシェア

pagetop