without you
「・・・怖くなった私は、旅館を辞めました。そして、誰にも行き先を告げずにそこを出て・・。またあいつは私を追ってくる、だから今度こそ、本当に姿を消さなければと思いました。それで、2ヶ月おきくらいに住むところと仕事を転々として。こんな形で、また東京に出戻るとは思ってなかったんですけど、仕事は都会の方が数的には多いし。人口が多い方が、返って群衆の中に紛れることができると思って。それから1年くらい経って、お金も底を尽きてきたし、転々としながら暮らすことに疲れて。できるだけ長く住みたいと思ったから、セキュリティが充実してる物件を探して、今住んでいるマンションを借りることに決めました。それから“A-spade”の求人ウェブを見つけて・・・。両親は元気か、さくらのことも毎日気にかけていたけど、あいつがどうやって私の居場所を見つけるか分からない。あいつに与える情報は、ゼロに近ければ近いほどいい。だから、家族への連絡は、意図的に絶って、いつでも逃げ出せるように、仲が良い友だちも作らないように、関わる人は少なくって、自分に言い聞かせて・・・。私ってホント、卑怯ですよね。家族を犠牲にして自分だけ逃げまわって」
「こら。頑張ってる自分に、それ以上ムチを打つな。卑怯なのは、間違いなくおまえじゃない。吉見だ。あいつは人として卑怯卑劣な最悪男だ。あみか」
「・・・はい」
「ホンット、おまえは今までよく頑張った。独りでよく闘ってきた。だが、それはもう終わりにしよう。な?」
「こら。頑張ってる自分に、それ以上ムチを打つな。卑怯なのは、間違いなくおまえじゃない。吉見だ。あいつは人として卑怯卑劣な最悪男だ。あみか」
「・・・はい」
「ホンット、おまえは今までよく頑張った。独りでよく闘ってきた。だが、それはもう終わりにしよう。な?」