without you
いかに周囲の人たちを騙せるかが、この計画を成功させるカギとなる。
その世界観をあいつがリアルに捉え、信じるほど、計画は成功に近づく、というわけだ。
ただ純世さんと結婚しただけでは、恐らくあいつは手出しをしてこないだろう。
少なくとも、すぐには。
でも私は、おなかの赤ちゃんまで危険にさらす勇気はなかった。
あくまでも、本物の赤ちゃんは。

私は、寺井さんが作り上げた偽の“クリニック”に、“検診”に通った。
実際はそこで、寺井さんから護身術を習ったり、妊婦に見せかけるために、おなかや胸や腿に偽の脂肪をつけてもらったりしていた。
リアルな妊婦に見せるために、少しずつおなかや胸を大きくしていくという細工は必須で。
妊娠はしてなかったけど、体は本当に重かった・・・。

臆病な私は、できることなら計画が終わるまで、マンションにこもっていたかった。
でも、あいつに私の姿を見せること、そして私が一人で外出をするようになったとあいつに認識させることが重要なのだ。
護衛がいないと分かれば、あいつは警戒を緩め、攻撃をしかけてくる可能性が高い。
私が純世さんと結婚し、(外見上)妊娠していれば、なおのことその可能性は高くなる。
私たちが思ったとおり、あいつは私が“臨月”なって、攻撃をしてきた。
あいつは、私たちが仕掛けた罠に、嵌ってくれた。

見事に。

< 632 / 636 >

この作品をシェア

pagetop