俺様な狼上司に迫られて!
それからだ
彼女と自分から関わりを持とうと思うようになったのは。
「松岡、ちょっと来てもらえる?」
「はい。分かりました!」
仕事に真面目なのは分かっていたから
それを使って
俺も真面目に仕事仲間として
始めは頼る様に呼んでいた。
「ここはこうした方がいいんじゃないですか?」
「ん?…あぁ確かに。そうだな、そうしよう。」
---本当に最初は 人として気に入ってただけだった。
「部長、これ私が出しておきますね。」
「え?あ、ごめん。じゃあよろしく。」
優秀な後輩で
俺に媚びてこない
仕事のしやすい女だと
感心していた。
下心がなく
変な欲もない。
頼り甲斐がある
そう思っていた。
だが……
「---部長、お疲れ様です。」
ある日
遅くまで2人で残って
プレゼンの資料を終わらせた時があった。
途中で帰れ、と言ったのに
最後までやらずに放り出すのは
嫌だと言うこいつに
俺は苦笑いをしながらも
言葉に甘えていた。
そして終わった後に
優しくも 俺に缶コーヒーを差し出してくれた。
まだあったかい、ということは
つい先程買ってきてくれたらしかった。
「え、そんな…いいのに。
わざわざありがとうね。」
「いえいえ。
お互いお疲れ様ってことで。」
そう言って笑うこいつに
俺は一瞬目を奪われた。
だがすぐに視線を逸らして
貰ったコーヒーを開けて、飲む。
そんな時に
ふとあいつが言ったんだ。
「部長はいつも大変ですよね。」
「…え…?」
「ほら、後輩の皆から慕われてるし
上司の人からも頼りにされてるから
いろんな人に気を使って大変でしょう?」
(……は…。)
初めてだった。
人から こんな風に言ってもらったのは。
絶対誰も気づかなかった。
誰もが俺は素であんな態度をとれてるんだと見ていたから。
俺が神経を使って
毎日人と接してるとは誰も思ってなかったから。
だから…驚いた。
こいつには バレてたんだ、って。
「私といる時は気を使わなくていい…なんて言っても、無理だと思いますけど
そんな気を張らずに
たまには ちゃんと息抜きしてくださいね。」
じゃないと人間やってらんないっすよ〜!
と
無邪気に笑うあいつ。
この言葉で俺は完全に---
松岡サユリに おちた。
俺が先に こいつに 下心を欲した。