グッドバイ
激しく突かれる。熱さと痛みが、快感に拍車をかけた。子宮にぶち当たるたびに、中がひくつく。
初めて、涙が出てきた。
美里は歯を食いしばり、自分を壊そうとする男を睨み上げる。隼人の乱れる前髪。死ぬ寸前の美里を見下ろし、唇に笑みを浮かべている。
美里はとうとう、隼人と目を合わせた。
「怒れよ。腹が立つなら、殴ってもいい」
荒い呼吸で、隼人が言った。
美里の中は、めちゃくちゃにされている。グレーのスカートは乱暴にめくり上げられ、ビリビリのストッキングが、汗ばむ脚にまとわりついている。ショーツは足首に引っかかったままだ。
美里は拳を隼人の肩に当てて、ぐっと力を入れる。
「いいよ、もっと殴れ」
隼人が言う。
美里は嗚咽が止まらなくなってきた。身体の歓びに喘ぎながら、泣き始める。
「最悪」
美里は小さな声で悪態を吐く。
「もっと」
「最悪、最悪、最悪」
麻痺していた心臓が、怒りに鼓動を早めてくる。
「あの人、ほんと、最低。今更、何言ってるのよ」
隼人の胸を両手で叩き出した。肌がみるまに赤くなっていく。
「『愛してるかどうか分からない』って、どういうこと? 分からないくせに私を何年も引き止めて」
二十五で知り合い、五年間を共にした。
「愛してるかわかんないなら、『結婚』なんて口にしないで!」
喚きながら、隼人の胸と肩を殴りつける。皮膚を張る音が、狭いビジネスホテルの部屋に響いた。
激しく揺さぶる目の前の男は、『そろそろ結婚するか』なんて、くだらないこと言わない。責任を取ろうとか、自分の立場がどうとか、そんなこと絶対に言わない。
「最低っ」
大学を卒業する頃は、『結婚』なんてどうでもいいと思っていた。望みの仕事につき、キャリアを積んでいくことを当然だと思っていたし、結婚を焦る女達を冷めた目で見てもいた。
「……あの人なんか」
息が苦しい。激情に飲み込まれる。
隼人が美里の腕を引っ張りあげた。爆発しそうな心臓に顔を埋め、唇と舌で愛撫を繰り返す。美里は隼人の頭をかき抱いた。
「動いて、自分で」
「ん……」
必死に応えた。
「俺は誰?」
粗い呼吸で、隼人が訊ねる。
「……違う」
美里は激しく動きながら、隼人の髪に頬を埋めた。
「こうやって、身体を揺さぶって、美里をかき回してるのは、誰だ?」
「違う。あの人じゃない」
隼人は美里の頬を挟むと、瞳を見つめた。上がる息。絶えず繰り返される、淫らな振動。
隼人は、美里の唇に舌を差しいれると、欲望のままに激しいキスをした。泣きながら、美里もそれに応える。濃厚な唇の交わりの合間に、隼人が言った。
「さよならだ」