グッドバイ

疑わなかった。
このままずっと、二人で時を過ごせるのだと思っていた。

隼人は美里を軽々とひっくり返すと、四つん這いにさせ、後ろから攻撃し始めた。美里の髪が乱れ、ベッドの上で激しいリズムを刻む。

あの人の好きな銘柄のビール。
あの人の好きな卵焼きの味。
朝がとても弱くって、意外にもゲームが得意なこと。

隼人が、仰向けになった美里の上に、のしかかる。より深く繋がって、美里は堪らず悲鳴を上げた。枕をかき抱いて、もう片方の手で隼人の肩に爪を立てる。

都内にマンションを買って、子供は二人ぐらい。男の子と女の子。あの人に似た瞳を持つ、やんちゃで、優しい子にきっとなる。

空気が絶え間なく揺れている。荒い呼吸を繰り返しながら、脚を隼人の腰に巻きつけた。隼人の動きが早くなる。
「いく」
「いいよ、いけ」
先ほどとは違う内側からの高まりが、美里を震えさせる。無意識に締め付けたのか、隼人が唇を噛み、眉を寄せた。

あの人がメガネを指で直す時。
あの人がソファでネクタイを緩める時。
癖のある髪をかき上げながら、私の名前を呼ぶ、その声。

隼人の硬い腕に、必死にしがみついた。我を忘れ、叫んで、衝動に身をまかせる。絶頂への渇望が、美里の中で燃え盛っていた。隼人の動きが更に早くなり、絶え間なく流れる汗が、互いの肌とシーツをぐっしょりと濡らしている。
「いくよ」
隼人の声が、耳から美里の身体に響いた。

すべてだった。
あの人が、自分のすべてだった。
あの人は『愛しているのかわからない』と言ったけど、私は。

最後の高まりに身体を持ち上げられて、美里は声の限りに叫んだ。

私は確かに。
あの人を『愛していた』の。

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