グッドバイ

美里は、バッグからスマホを取り出した。真っ黒な画面に、いくつかの指紋。再び電源を入れた。
着信も、メールもない。
スマホを再びバッグにしまうと、美里は小さく息を吐き、ゆっくりと歩き出した。
夜のビジネス街。遠くで、車の走る音。見上げると、ビルには所々に明かりが灯る。
パンプスの中が汗ばんで、歩くたびにかかとが擦れて痛い。美里は、カバンのストラップを、ぎゅっと握りしめた。
そこに、携帯の鳴る音。
美里は街灯の下で立ち止まった。顔がこわばり、眉間に深い皺が寄った。
美里は、迷いながらもカバンから携帯を取り出したが、着信を見ると肩から力が抜けた。
一息つくと、電話に出る。
「もしもし? お母さん」
静かな夜の街に、美里の声が響く。
「なに? うん、そう、今帰るところ」
美里は再び歩き出した。背筋を伸ばし、髪を整える。そして、先ほどよりも少し足早に、駅へと向かった。
「うん、そう、相変わらず」
美里は笑う。
「毎日、変わらない。今日も普通の一日だったわ」
そう答えた。



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