グッドバイ
週末のビジネスホテル。一人がけのソファが二つほどしか置かれていない、狭いエントランス。新聞と雑誌が無造作にテーブルに置かれ、強いタバコの香りが残る。
嘘っぽい大理石のカウンターで、男は鍵を受け取った。髪をきっちりと分けた中年のホテルマンは、二人と決して目を合わさない。
「三階だ」
鍵を読んだ男が、美里の手を引きエレベーターへと向かう。男の足取りに迷いはない。
美里は、一度だけ振り返った。
ガラス張りのドアが、一時の豪雨に洗われているのが見える。美里はそのままエレベーターに乗り込んだ。