グッドバイ
美里をベッドに座らせると、隼人は床に膝で立つ。濡れて冷たくなった美里の頬に手の甲を当てて、それから再び口づけた。
震えるような快感。下唇を軽く噛み、舌でなぞる。美里は倒れそうになるのを、シーツを握って堪えた。呼吸が上がり潤んでくるのが分かる。
「どうしてほしい?」
隼人が訊ねる。「美里さんの好きにしていいよ」
「じゃあ……優しくしないで」
美里は言った。
「逃げられないように、して」
隼人は美里の瞳を見つめ、笑みを見せる。それから美里の手首を、動けないようにぎゅっとと掴んだ。
片手で、手早くスーツのボタンを外す。美里は手が痺れてきたが、まだ抵抗しなかった。続けてブラウスのボタンに手をかける。小さなボタンは、まるで弾けるように次々と外れていった。その間、隼人は美里の表情から目をそらさず、じっくりと観察する。美里は思わず顔を背けようとした。
「駄目。俺を見て」
美里を握る隼人に力が入る。痛みに近い痺れが、首筋を駆け上がった。軽い電気が流れたような感覚。美里は息を飲んだ。
セックスは、優しい愛撫から始まるもの。唇から全身へ、くまなくキスを降らせて。シーツがゆっくりと温まり、汗ばむ肌とその香り。
銀縁のメガネを取る時が一番好き。優しいあの人が、男性に変わる瞬間だから。