私を呼んだ。



私は何が起きたか一瞬わからなかった‥‥

ただ翼の手の力が私を必死に守ろうとしてくれていることだけがわかった。

私が呆然としていると。

「凛子さん、もう大丈夫ですよ。早く帰りましょう。」

翼は振り向き、涙で潤んだ私の目を拭うように頬に触れて、私の右手を引っ張った。

すると、後ろで物音がする。

「‥‥このクソガキ‥‥!」

男はジャケットからもう一つのナイフを取り出し、翼めがけて走り出した。

「‥‥危ない‥‥!」

私はとっさに少年をかばおうと振り向くと

少年は私を抱き寄せ、


‥‥ブスッ‥‥


私の目の前を血がポタポタと落ち始めた。

「‥‥いや‥‥!」


翼がナイフを右手で掴んでいた。

「‥‥しつこいなぁ‥‥」

翼は右手でナイフを掴んだまま男に強烈な頭突きをくらわせた。

「‥‥がっ‥‥」

男はその場に倒れ込み、ナイフを落とした。

翼は男を睨み下ろしながらナイフを男の手から離れるように蹴った。

「この人は俺のだって言ってんだろ‥‥次この人に近づいてみろ。刑務所生活よりもっと苦痛な人生おくらせてやるよ‥‥」

翼は男の顎につま先を当てながら言い放つと男はそのまま逃げるように去っていった。

「翼くん!!大丈夫‥‥!?手見せて‥‥」

「こんなの平気ですよ。凛子さんは怪我ありませんか?」

「あるわけないじゃない!‥‥あなたが守ってくれたんだから‥‥」

翼の右手をとって止血しようとすると自然と涙がこぼれた。

「‥‥ごめん‥‥ごめんなさい‥‥。私が電話なんてしたから‥‥ほんとごめん‥‥。」

「凛子さん‥‥」

翼は少しかがんで私の顔をのぞき込むようにして、左手で私の涙を拭った。

「あの時と‥‥逆だな‥‥」

「え‥‥?」

「いや‥‥なんでも‥‥。」

翼は急に甘えるような声で

「嬉しかった‥‥」

「え‥‥」

「こんな時にすみません‥‥。でも、凛子さんが俺の携帯にかけてきてくれたのが嬉しくて‥‥。」

少し頬を赤らめながら翼は私から目線を外す。

可愛い‥‥。

私はおかしくてフフッと笑ってしまった。

「‥‥ありがとう‥‥、助けてくれて‥‥守ってくれて‥‥」

私が翼を見上げてニコッと笑うと、

翼はまた頬を赤らめて口をムスッとさせて下を向いた。

小さい子どもみたい‥‥









‥‥あれ‥‥小さい子ども‥‥?












「帰りますよ、凛子さん!」

「え、あ、うん!」

翼は私の右手をとって歩き出した。

私は翼の大きな背中を見ながら歩いた。




‥‥あの日の少年と重ねながら‥‥







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