私を呼んだ。
お姉ちゃん
伊藤美和。
美しく和やかに育って欲しいとつけられた。
女の子っぽい可愛らしい名前が気に入ってはいるが、私は姉の〝凛子〟という名前が
とても羨ましい。
凛々しくたくましい女になるようにとつけられたそうだ。
それはやはり第1子として、長女としてしっかり育って欲しいと思いが込められいる。
たくましく強く育って欲しいと願われた姉に対し、
可愛らしく育って欲しいと願われた私。
別にそこまでの不満はないが、
私は可愛らしく育っていれば、たくましくなくても、強くなくてもいいのか。
そんな子どもっぽい疑問を両親が亡くなるまでいだいていた。
姉は名前通り強く育った。
しっかりして面倒見もよく、頭も良い。
そして何より綺麗になった。
とても、綺麗になった。
ほんとうに、綺麗になった。
いや、昔から綺麗だった。
姉はほんとうに私の憧れだった。
近所の人達が「凛ちゃんしっかりしてるね。」
とか、
「凛ちゃん綺麗にになったね。」
とか言うと私の方が嬉しくなった。
私のお姉ちゃんはスゴイんだ。って。
でも、そんなことを思えたのは小学校までだった。
中学に上がると周りは大人びた子がいっぱい。
小学校までは成績上位だった私は中学に入ると一気に250人中200番代にまで落ちた。
いや、落ちたのではない。
やらなくなった。
姉と比べられるのが嫌で、苦痛になった。
努力しても姉にはかなわない。
姉みたいに強くなれない。
私が姉みたいに強くなれないのは、
名前のせいだと思っていた。
名前に込められた願いが違うから、私の方が単純につけられたから、そー言い訳を続けていた。
でも、私は姉を嫌いにはなれない。
むしろ、大好きだ。
私たちの両親は駆け落ちをして結婚したので、親戚との繋がりは全くなかった。
だから、急に両親が死んだ時私たちの引き取り手がおらず、施設にあずけられそうになった時、姉は頭を下げて頼んでいた。
〝親の保険金で私がやりくりして必ず美和を育てます。だから‥‥2人で暮らさせて下さい。〟
姉は部活をやめ、わたしを育ててくれた。
まだ高校生3年生の少女が、小学5年生の子どもを。
自分のやりたい事を犠牲にして私を育ててくれた姉が私は大好きだ。
だから、王子が姉を好きになってもおかしくない。
そう思っていた。