私を呼んだ。
年の差
帰り道‥‥
翼くんは私を送ってくれた。
私の左手を離さないで。
私の少し前を歩いて何を話してもこちらを見て話してくれない。
〝 こっち向いてよ?〟と言うと、
〝 もうちょっと待ってください〟と言う。
これを3回ぐらい繰り返した。
何故振り向かないのか分かっていたが、
可愛くて何度も言ってしまった。
右耳の裏まで真っ赤だった。
私まで恥ずかしくなってくる。
もう四捨五入したら30の私に
〝 青春〟を思い出させてくれている‥‥。
その時、何故か彼の口からまた聞きたくなった。
〝 私が欲しい〟という彼の言葉は
いつの間にか、
〝 私の欲しい言葉〟に変わっていた。
「‥‥ねぇ、」
「はい?」
「私のこと‥‥好き‥‥?」
「何回言わせるんですか。」
「‥‥‥‥」
「好きですよ。」
「‥‥それは昔の私‥‥?それとも今の私‥‥?」
自分でも馬鹿な質問だとは分かっていた。
だけど聞かずにはいられなかった。
「どっちも凛子さんじゃないですか。」
‥‥ほら、彼はいつも私の欲しい言葉をくれる‥‥。
「凛子さんが好きです。」
「‥‥フフフ。‥‥そーなんだ!」
「‥‥え、なんですか!それ!」
彼は私の返答に驚いたのか
勢いよく振り返った。
「‥‥こっち向いた‥‥」
「‥‥あ‥‥」
彼は恥ずかしそうに左手の甲を口に当てた。
また前を向こうとする彼の手を引き、
あいていた自分の右手を
私の頭より上に上げて彼の頬に指先を当てた。
「‥‥可愛い‥‥」
私は自然に上がる口角とともに呟いた。
急激に頬を赤く染める彼が愛おしくなった。
すると彼は頬に当てていた私の手をとり勢いよく引き上げると
ずっと握っていた右手を離し、私の腰に回した。
すると彼の顔がハッキリ見えなくなるぐらいまで近くにあった。
「俺‥‥男なんで、〝 可愛い〟より〝 カッコイイ〟の方がいいですね。」
そう言ってニヤっと右口角を上げる彼に赤面している自分に気付いた。
‥‥やられた‥‥。
そんな私の姿を見て彼はクスッと笑うと、
腰に回していた手を解き、再び私の左手を掴むと
また私の少し前を歩き出した。