私を呼んだ。
自覚
実は翼と初めてあった高校3年生の夏。
私には彼氏がいた。
初恋では無かったが、忘れられない恋だった。
高2のクラス替え。
隣のクラスになってしまった里美に会いに行くとその人がいた。
里美の前の席だったその人は私が来ると席を立って〝座っていいよ〟とこちらを向かずに言っていつも席を貸してくれた。
優しい人。その印象でしかその時はなかった。
休日の陸上部の練習はだいたい午前中からで、午後からはサッカー部と、野球部が使っていた。
明日が試合なのか、その日、サッカー部が早めに練習に来ていた。
私は走り足りず、練習が終わっても校舎周りを走っていた。
すると、
‥‥トン‥‥
足元にサッカーボールが転がってきた。
「すいません!」
「‥‥いえ‥‥」
「‥‥あ、」
その人だった。
「‥‥まだ走ってたんだ‥‥」
「うん、‥‥サッカー部だったんだね。」
「‥‥うん‥‥」
なんとなく、気まづい空気が漂っていた。
「‥‥午前と午後で入れ替わり練習だったのに、全然気づかなかったね。」
空気に耐えきれず、私が言った。
「‥‥俺は知ってたよ。」
彼は私の目を真っ直ぐに見て言った。
思えばこんな目を合わすのは初めてだったかもしれない。
「‥‥俺、ちょっと早めに来てるから、たまに見てた‥‥。伊藤さんが走ってるの。」
「‥‥名前‥‥。」
彼は私の名前を知っていた。
「そ‥‥なんだ。ごめん、私‥‥名前‥‥」