私を呼んだ。
高3になった私達は、進路に向けての話をたくさんした。
行きたい大学もわからず、ただただ陽輔の進路を聞いていた。
「俺、アメリカ行きたいんだ。」
「アメリカ?」
「うん。アメリカの大学で勉強したい。」
成績も学年上位だった彼なら夢ではない話だった。
「へぇー!すごい!!陽輔なら大丈夫よ!!!!」
「‥‥寂しくない?」
「‥‥へ?」
「俺、アメリカ行っちゃうんだよ?受かったらだけど‥‥」
「寂しいけど、陽輔の夢の邪魔はしないわ。」
私がそう言うと、陽輔は少し寂しそうに言った。
「‥‥ありがとう。」
今の私にとって大事なのは、進路ではなかった。
次の大きな試合。
リレーメンバーという重大なつとめ。
陽輔が受験勉強を始める中、私はひたすら練習を積んだ。
自分の人生を変える試合だとも知らずに。
お葬式には陽輔も来てくれた。
右手になにかパンフレットのようなものを持っていた。
「‥‥凛子‥‥俺、」
「‥‥陽輔‥‥私は、陽輔みたいに強くなれない‥‥。お父さんがいなくても強く妹さんを守ってる陽輔みたいに‥‥私にいつも笑顔をくれる陽輔みたいに‥‥ごめんなさい‥‥。」
言葉の意味を悟ったのか陽輔は目をぎゅっとつむって言った。
「‥‥ごめん‥‥何も出来なくて‥‥ごめん。」
そう言うと背中を向けて歩いていった。
右手のパンフレットがちらりと見えた。
私の家から近い大学のパンフレットだった。