私を呼んだ。
お兄ちゃん
私は、父という存在を知らない。
私が産まれる前に亡くなったらしい。
しかし、私はそれに寂しく思ったりはしなかった。
お兄ちゃんがいたからだ。
私はお兄ちゃんが大好きだった。今も。
本当に私を可愛がってくれた。
私が翼に興味を持ったのも、少し雰囲気がお兄ちゃんに似ていたからとも言えた。
お兄ちゃんさえいれば、お兄ちゃんがずっと私を好きでいてくれたら。
私は父親などいらなかった。
〝咲姫、お兄ちゃん彼女ができたんだ。〟
なにを言ってるのかわからなかった。
〝彼女って‥‥?〟
〝ん?1番大切な女の子って事だよ。〟
耳を疑った。
お兄ちゃんの1番大切な女の子はずっと私だと思っていたから。
なんで‥‥なんで彼女なんて作ったの‥‥?
誰、誰が私のお兄ちゃんを取ったの?
誰かもわからない見たこともないその彼女が
私は大嫌いだった。
翼を取ったあの高校生も大嫌いだった。
あの人が大嫌いだった。