私を呼んだ。
私よりも辛い思いをしてきた人。
「‥‥咲姫?」
誰にも頼らず、誰の影にも隠れず、妹を守ってきた人。
「‥‥さい」
私より足が速かった彼女は私よりも大人になるのも速かった。
「‥‥なさい」
あんなこと言っておきながらやっぱり私の中には〝嫉妬〟という言葉しか残っていなかった。
「‥‥ごめんなさい‥‥」
「ちょ‥‥翼くん‥‥」
翼の引く手は強くなっていた。
「‥‥痛い‥‥ちょ翼くん!」
そう言うと翼は立ち止まって
振り返った‥‥
‥‥グイッ
「ひゃっ!」
翼の左手は私の後頭部を支え右手は腰に回っていた
そして、翼の切れ長の目が目の前にあり、顔がハッキリ見えなくなるくらいまで近づいていた。
「このまま‥‥」
翼は少し顔を離して、顔がハッキリ見えるようになった。
「‥‥このまま俺も‥‥できたらいいのに‥‥」
翼はそう言うとゆっくりと私の肩を持って体を離した。
「‥‥翼く‥‥」
「‥‥凛子さんだったんですね‥‥」
「え?」
「陽輔くんの高校生の時の彼女です。」
「‥‥ど‥‥して」
「陽輔くんが言ってたんです。〝俺の彼女本当に綺麗だから翼に会わせたら翼も惚れちゃうからなぁ‥‥〟って言って結局会わせてくれなかったんです。」
小学生相手に何言ってんだか‥‥
「でも‥‥陽輔くんの言う通りだ。」
「‥‥ぇ」
「‥‥本当に惚れちゃった‥‥」
翼は優しく微笑んだ。
「‥‥送ります。美和さん心配してるんで帰りましょう。」
すると翼は私の手を離して歩いた。