可愛いあの子は美人に弱い
「吸うわよ! 当然でしょ!?」

 緊張を誤魔化す様に、声を荒げ和真の肩に手を乗せた。

 その手が僅かに震えているのが分かる。


「おいおい、今更怖気(おじけ)付いたのか? 手、震えてるぞ?」

 半分本気で呆れる。あれだけ自信満々に追いかけて来ていたのは何だったのか。


「ち、違うわよ! 直接血を吸うのは初めてだから緊張しているだけ!」

 誤魔化す様に大きな声を上げる蓮香に、和真は明らかに信じてませんといった風に「ふーん」とだけ返した。


「吸うからね!」

 悲鳴の様に叫ぶと、やっと和真の首筋に顔を埋める。

 フワリと、花の様な甘い香りが和真の鼻をくすぐる。


 蓮香の牙が肌に触れる――という所で、「そうそう、一つ言っとかなきゃなんねぇんだけど」と切り出した。

 ピタリと止まった蓮香は、ギギギと壊れたロボットの様に顔を上げ和真を見る。


 せっかく覚悟決めたのに何で止めるのよ!?

 と、声に出さずともその目と表情が物語っていた。
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