【短編】もし、それが嘘だとしても
嘘つきは好きだよ
*****

ごめんね、と先輩は笑った。


大晦日、会社の忘年会。

なぜか昼間からあるそれの準備をする手を止めて、僕は彼女─静樹さんを見た。


「私、婚約者がいるから」


事務的な笑みは嫌いだ。
もう壊すことのできない、どうしようもない壁を感じるから。


嘘だと分かっていても、僕に食い下がることはできなかった。
いや、できるはずがない。


「形を求めてる訳じゃないんです。ただ、僕が─貴女を好きだと言うだけ」


手、止めたら怪しまれるよ。


静樹さんから返ってきたのはまたしても事務的な言葉だった。


「嘘つきは好きだよ。だから、和葉くんのことも嫌いじゃない」

「自分自身も、嫌いじゃないってことですか」

「どうかな」


文字通りの苦笑いをして静樹さんはお猪口を並べ終え、何も言わずに去って行った。



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