怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
5階まで上がってきてエレベーターの前で待っていた美祈の背中をそっと押し部屋の番号を見る間もなくドアを開けた。
「こんばんは。お邪魔します」
美祈の緊張にも近い声が響き
同じく緊張した面持ちの柊哉が
「芹沢、いらっしゃい」
出迎えの為に出てきた。
だが、当然のごとく、瑛太の読みはひとつも外れることもなく
まさに予想通りの二人の反応。
「芹沢じゃねぇの?」
柊哉の言葉で瑛太の顔を見上げる美祈。
その美祈の背中をトンッと押す瑛太。
「あ…あの…課長…芹沢です」
声は確かにそうだと思うが目の前にいるのはまったくの別人。
「まぁ、詳しい事は中に入って食いながら話そうや」
「そうだな」
縮こまるような美祈に大丈夫だと耳打ちをして優しくエスコート。
「うわっ広い」
「だろ」
瑛太と美祈は顔を見合わせる。
それを横目で見つめるのは、状況がわからない柊哉。
「これ、美味しくないかもしれないですけど」
「手作り?」
「男の人だから煮物とかあまりしないと思って」
柊哉と美祈が思いっきりぎこちないのは仕方ない。
それでも瑛太に促されると素直に隣の席に座った。