怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
「柊ちゃんはまだ帰ってねぇのか」
いないってことは必然的に夕食の仕度は瑛太の仕事。
冷蔵庫の中をガサガサと漁り
「よし。あんかけチャーハンと野菜炒め」
またチャーハンって怒るかな。
「食えりゃいいよな」
相変わらずの独り言。
「これぞ男のダイナミック料理!」
拍手をしていると玄関のドアが開き柊哉が帰って来た。
「チャーハンか?」
「ご名答」
スーツを脱ぎに行った柊哉の後を追いかける瑛太に怪訝な顔をみせる柊哉。
「なんだよ」
「なぁ。俺って人相悪い?怖そう?」
「突然何だよ」
面倒そうに柊哉が答えるが瑛太はさっきの美祈の行動が気にかかる。
「すげぇ可愛い子がこのマンションにいんだよ」
興奮気味な瑛太を後目に柊哉はスーツをハンガーにかけネクタイを片づけると
スエットに着替えた。
「俺を見たら壁に張りついて怯えてた」
がっくりと肩を落とす瑛太に思わず吹き出し
「危険な男に見えたんだろうな」
「最後にいた場所がいけなかったのかなぁ」
それは、スラム街と言われる街で写真を撮り続けていたこと。
美しい景色ばかりでなく、ここにもまた生きていくために生活している人間がいる。
瑛太はそんな写真を撮るために危険を承知でスラム街でシャッターを切り続けた。
「張り紙されないように気を付けてくれよ」
「凹むなぁ。ヒゲ剃った方がいい?ねぇ柊ちゃんってば!」
今朝の不審な女と同一人物とは知らない瑛太。
わかっているから怯えた美祈
これからもっともっと関わりあう日常が始まりを告げた。