怪しい羊と迷えるオオカミ'S【完】
カルボナーラを食べながら読んだ美祈は、これって私はウィッグを外して会社に行くってことだよね…と心の中で1人呟く。
「マコ」
「あんたのウィッグさっき捨てた」
「は?」
「ここまでしてくれるんだよ。あたしはマスクも全部とって会社行ったっていいぐらいだと思ってる。だって前に比べたらどこでもすごい元気になってるよ」
確かにそう。
集団で何かをする場は当然だったけれど街中でも人通りの多いところは俯きがちだった美祈だ。
でも今はそのままの自分でも俯く事もなく外へ出る。
小さい声で話すわけでなく普通に会話も出来る。
これは、座敷童として社会人になり少しずつ自信を得たものだと思う。
瑛太はもちろんだが柊哉もすでにそのままの美祈にも違和感を感じなくなっている。愛着とは別だ。
会社でもすぐにそうなる。
マコに言われ、ウィッグなしで出勤する事にした。
ただマスクも外すというのは、なかなか決心がつかない。
「一番、違和感ないのがマスクだから慌てなくてもいいよ」
「うん」
食事が終わったマコが帰宅すると
明日、ウィッグなしで出勤してみます。
何の勝負したことにしたらいい?
Typing対決。
俺より美祈の方がずっと早いだろ。
美祈という自分の名前を見ただけでこんなにも嬉しく感じる事があっただろうか。
美祈と自分の女の名前を打つ事が、こんなにも照れくさい事があっただろうか。
瑛太も美祈の間もひとつ階段を上がり
心の中に幸せが大きく膨らんでいった。